商業地に投資マネー
五輪後の悪化論、後退
基準地価
全国平均2年連続
地方圏28年ぶり上昇
国土交通省が公表した今年7月1日時点の都道府県地価調査(基準地価)は、全国全用途の平均が2年連続で上昇し、用途別で見ると、3年前の小数点第2位以下の微増を考慮すると商業地が4年連続で上がり、住宅地で下落幅が縮小している。
三大都市圏は依然として強含み、全用途平均・商業地・住宅地のいずれも各圏域で上昇を継続している。
地方圏でも商業地が0.3%上がり1991年以来28年ぶりに上昇に転じるとともに、住宅地の下落幅も縮小傾向が続いた。
特に札幌市・仙台市・広島市・福岡市の地方4市の商業地は10.3%アップ。
地方4市の2桁上昇は12年ぶりだ。
地価の上昇は都心部から地方圏へと波及している。
都心も一部に上げ余地
東京圏・商業地 強含み賃料が後押し
全国の最高地価は今年も東京銀座の「明治屋銀座ビル」で1平方メートル当たり4320万円(3.1%上昇)だった。
物販など店舗需要が強く店舗賃料が堅調に推移している。
大阪圏の最高地価は、昨年に続き心斎橋・なんば地区の「住友商事心斎橋ビル(旧クリサス心斎橋)」で2440万円(45.2%上昇)となり、訪日客効果を受けてその上昇率は大阪圏のトップで全国3位となっている。
全国の地価上昇率は、商業地のトップ10を見ると、沖縄が4地点で最も多く、大阪の3地点に続き、北海道、京都府、東京都のそれぞれが1地点ずつランクイン。
上昇率1位は北海道倶知安町「川端文化堂」(66.7%)だった。
2位は那覇市の「松樹ペアシティビル」(50.3%)。
東京も台東区の「ザ・ハウス浅草」が34.5%上昇し10位に付けた。
昨年5地点がランクインした京都市は1地点のみとなった。
一方、住宅地の地価上昇トップ10は、沖縄県が6地点を占めて北海道も3地点がランクインするなど国内外の観光需要の強さを印象付けた。
北海道は昨年見舞われた胆振東部地震の影響は一部にとどまっているようだ。
北海道は1~3位までを独占した。
リニア新幹線開通や名古屋駅周辺の再開発などの期待から名古屋市が1地点入った。
東京圏の商業地は強含み傾向。
東京23区で8.4%(前年7.2%)上昇した。
目黒区、大田区、練馬区で上昇率5%を超えたため、すべての区が5%超の上昇幅となった。
その中で中央区は9.7%(前年9.9%)上昇と昨年に続き10%近い伸びを示した。
オフィス区分販売のボルテックスは銀座で更地を取得。
2年後をめどにビル開発を計画するといった動きもある。
ただ、「キャップレートのこれ以上の低下は想定しづらい」「しばらくはもみ合いの状態になる」との見方に加えて、野村不動産アーバンネットのソリューション営業二部副部長の宮澤大樹氏は、「地価はいいところ(天井感)まで来た。都心は横ばいか微増で推移するのではないか。オフィスなどの商業用不動産は一部都心で若干の価格上昇余地も残す」と話す。
引き続き賃料の上昇が確認できているためだ。
「主要都市では外資ファンドの買い意欲が強い」とも指摘し、「場所は限られるが個人投資家では手が出ない10億円以上の物件の取引が一定水準を保っている」と実感する。
都心3区(千代田・中央・港)では、ホテルや収益不動産向けの土地取引が増加している。政府が30年に訪日客6000万人を目指す中で「デベロッパーやホテル関連企業による用地取得は活発で取引価格も跳ね上がる」(不動産大手)。
東京や大阪、名古屋、京都に限らず、札幌や広島、福岡、金沢でも同様だ。
不動産業界として今後の市況見通しに悲壮感はない。
来年の東京五輪後についても単発的な調整局面があったとしても、その尾が長引くことはないとの観測が少なくない。
特に東京は人口流入が当面継続することと、人手不足に伴い優秀な人材を確保するためのオフィス拡充や外国人就労者の門戸拡大などが下支えする。
副作用が懸念される中でマイナス金利の深掘りも不動産業界にとって追い風だと歓迎ムードだ。
格付け大手ムーディーズ・ジャパンの福士昭文氏は、「シクリカル(循環的な景気変動)は避けられない。一本調子で好調が続くとは思っていないが急落もないとみんな思っている。当社がよく言う“金利の関数効果”を享受している。低コストで物件を購入し賃料を上げその利ざやでキャッシュフローを増やしている」と指摘する。
東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の井出武氏は、「五輪後であっても地価は底堅く推移するのではないか。訪日客も引き続き増加し、その周辺業務で人材も欲している。人が集まる機能を持つ街の地価は強い。景気の腰折れは経済・軍事の双方の紛争リスクが鍵を握っている」と話す。
※週刊住宅タイムズ より